BACK 女性講師と食事 (レストラン世界)        

 明るくなった朝の海を背に帰途に着いた。海岸から道路に上がると、一台のダブルデッカーが南から北に向かって行った。数人の乗客が乗っている。通の左側に木造の大きな洋館が芝生に囲まれひっそりと建っている。「豪華な別荘」のようだ。そこからは緩やかな登り坂で、今朝降りてきた道だ。彼女のB&Bは、このすぐ上の通りのはずだと狙いを定めて2ブロック上に歩いてきた。そして、 「ここが彼女の家だ」と確信し左に曲がった。しかし、奥に建っているはずの彼女の家が見あたらない。さらに、「北」に進むとやっと「見覚えのある」広い道が見えてきた。心の中でほっとした。しかし、彼女のB&Bではなく他人の住宅だった。似たような「住宅」ばかりで、頭の中はパニック状態になった。元の道迄戻ろうかと思いもした。どうやら、完全に道を間違ったようだ。今日に限ってオ−ナ−の名前も覚えずに出て来てしまった。8時30分はとっくに過ぎてしまい気だけが焦ってきた。「こうなれば、誰かに尋ねる事だ」と決めた。周りの住宅を見ると、門にチャイムやベルはなく家の住人に合図できない。仕方なく、目前の家の門を開けて中に入り玄関のドア−をノックした。まるで、「あの赤っ鼻のタクシー運転手」の行為と同じだ。しかし、家の中から応答はない。これらの「住宅」は夏だけの「別荘」なのだろうか。

困り果てていたら、庭の花に水をやっている若い女性がいた。低い垣根越しに、「この近くのB&Bから散歩に出たんですが道に迷っています。オ−ナ−の名前も覚えてないんです」と言うと、彼女は「近所の事は知らないんです。申し訳ないです」と言われてしまった。「大きな期待」を裏切られてしまった。「さあ−」どうしよう、本当に困った。電話するお金もないし番号が分からない。周りには公衆電話が一台もない。ぼくは、「最後の手段」を考えた。近くの家の電話をお借りして、警察に助けを求めることだ。でも、警察にどのように説明すれば良いのだろうか。それに、この街に警察官はいるのだろうか。事実、今日までパトカーと警察官は見たことがない。「そう」思いながら再び坂道を登り始めた。目の前に見覚えのある道あるやっと帰れると思った。庭の中にスターレトが見えた時は、感激のため「ここだ」と大声を上げてしまった。30分以上数ブロックをぐるぐる廻っていた。日本なら「狐につままれ道に迷った」のだ。この国にもそんな話はあるのだろうか。 「何もなかった」ようにドア−を開けた。直ぐに彼女が出てきて、「長い散歩だったわね、海は良かったですか」と、朝食の用意をしながら話しかけて来た。「ええ、とてもね。とにかく顔を洗ってきます」と言って二階に上がった。

道に迷ったことは言わない事にした。一息付いてから「冷や汗」まみれの顔を洗った。服を着替え食事室に入った。すぐに、朝食を持って来てくれた。「砂浜でおもしろい人がいたです。地雷検知器で金銀財宝を捜している」と僕、「その人はこの辺りでは有名人なんですよ。地雷検知器の原理を応用して、金属探知器を造ったそうです」と彼女。「この海岸は塵もなくとても綺麗ですね」、「でも、海草が多く打ち上げられるんです。だから、定期的に掃除されているんです」と彼女、「でも、食べられる海草を捨てるのは、もったいないですね」、「この近海の海草は、食べられるとはかぎりません。確かに、海草は食べない傾向ですが・・・・」と彼女。彼女と話しながらの朝食は最高だ。「ご馳走さまでした」と礼を言うと、「リンゴは好きですか」と僕の顔を見た。「裏庭で採れたリンゴがあるのお食べになりますか」、「ええ、でも朝食を食べたところなので今は結構です。差し支えなければ何かに包んでくれませんか。空港で食べます」、「そう、それでは綺麗に包んで用意しておくわ」と彼女はニッコリ笑った。「20分後に降りてきます」と笑顔を返しておいた。「下のバス停迄送るわ」と言ってくれた。

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